☆みつけ鳥(グリム童話集2)

グリム童話集2『みつけ鳥』

☆大畑末吉*訳

偕成社文庫

●このお話はなぜかではなく、下男たちがさがしにきてみつけ鳥とレーネちゃんが何になるかということに面白さがある。


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『オレンジ・サンセットの国』4/6

ショウちゃんはサヨの弟です。4年前に肺炎で死んでしまい、今は『オレンジ・サンセットの国』の住人です。

 ショウちゃんは元気になったサヨみて、安心しました。ショウちゃんは4年前に自分が死んだことをはじめのうちはわかりませんでした。ショウちゃんの死は突然やってきて、死ぬということもわからないままショウちゃんは『オレンジ・サンセットの国』の住人になったのです。『オレンジ・サンセットの国』は夕焼け色のオレンジ色でしたからはじめてそこに着いたときはあたたかいものに包まれた気がして、安心できたのです。
ここで『オレンジ・サンセットの国』のことを少し説明しますと死んだらだれもが『オレンジ.サンセットの国』の住人になるわけではないのです。『オレンジ・サンセットの国』は死んだことがわからないものがしばらくの間いる場所です。死んだことを受け入れる場所と言えばいいでしょうか。突然の死や小さい者の死は本人がわからないままそのことが起こります。ですから家族から離れたこと、自分が死んだことを理解するためにしばらくそこに存在するわけです。『オレンジ・サンセットの国』は生きている人間と死んだ人間の中間点にあるといえます。ですからわりと容易に『オレンジ・サンセットの国』には生きている人間は実はいつでも行けるのです。ひとつはサヨが行ったように前の晩の夜うちにコップに水をいっぱいにして夜空の月をコップの中に落とします。月をコップに落とすには透明なコップを月にかざして「オレンジ・サンセット。オレンジ・サンセット。オレンジ・サンセット。」と3回言います。そうすると月はコップの中にコトリと落ちます。これが『オレンジ・サンセットの国』の鍵となるのです。夕焼けのオレンジ色と夜のインディゴ色の混ざり合うコントラストの空になった時、風がピタリと止んで、さかりの野良猫が「ねう!」と一鳴きするのを聞いた瞬間、『オレンジ・サンセットの国』の扉に月の鍵を取り出して、そっと差し込んでみると月の鍵がピカッと光って、右に半回転してカチャリと止まると『オレンジ・サンセットの国』の扉が開いて入ることができます。実はもっと簡単な方法があって、それは夢の中から行く方法なのです。寝る前に『オレンジ・サンセットの国』へ行きたいと思って眠ってごらんなさい。きっと行けますから。人間はみんな無意識のうちに『オレンジ・サンセットの国』に行ったことがあるはずなのです。夢の中ですからほとんどの人が覚えていないだけなのです。そして、自分とつながりのある人がいないとなかなか『オレンジ・サンセットの国』にはつながらないのです。夢は常に『オレンジ・サンセットの国』とつながっていて、夢を見ている間はとても行きやすくなります。知らないで『オレンジ・サンセットの国』へ行っている場合もあります。ショウちゃんは死んだ後、オレンジ色のその世界でサヨやお母さんやお父さんを探しました。でも、見つかりません。他の人にも会いませんでした。ショウちゃんは緑色が好きでしたが『オレンジ・サンセットの国』のオレンジ色もだんだん好きになってきました。オレンジ色はあたたかくて、懐かしく安心するからです。ショウちゃんは毎日毎日オレンジ色の光に包まれていました。どのくらいたった頃でしょうか。ショウちゃんは夕焼けの時間に自分の住んでいたところを見ることができることを知りました。サヨを見たとき「サヨ。サヨ。」と呼んでみましたがサヨはショウちゃんには気がつきませんでした。でも、ショウちゃんはそれからオレンジ色の夕焼け時に毎日自分の住んでいた家を見に行くのが日課になりました。『オレンジ・サンセットの国』は夕焼けのオレンジ色とつながっていましたから夕焼けが照らしているところでしたらどこへでも行けました。ショウちゃんは毎日大好きな姉のサヨに会いに行きました。そして、とうとうサヨが肺炎になったその日に姉に会うことができたのです。その時はサヨが肺炎で意識がもうろうとしていて、夢の中にいましたから夕焼けの時間より数倍会いに行きやすくて、声も届きやすかったのです。ショウちゃんは姉の名前を「サヨ。サヨ。」と呼びました。サヨは「はい。はい。」と昔みたいに答えてくれます。ショウちゃんはとてもうれしくなって更に「サヨ。遊ぼう。」と誘いました。サヨはショウちゃんとともに『オレンジ・サンセットの国』で遊ぶことになりましたが肺炎で弱っていたのと『オレンジ・サンセットの国』に8時間以上いる場合はオレンジ・サンセットの住人の心臓を借りなければオレンジ色の夕焼けの一部になってしまいます。ショウちゃんはサヨに心臓を貸してやりました。そうするとみるみるうちにサヨは元気になりました。二人は何して遊ぶか相談します。かけっこ、鬼ごっこ、かくれんぼ、石蹴り、なわとび、てまり、おままごとなどサヨに遊びを教えたりして、ショウちゃんは満足気です。なんて楽しいのでしょう。たくさん遊んでそんな風に思っていたら「サヨちゃん!」とお母さんの呼ぶ声が聞こえるとサヨは目の前からいなくなってしまいました。ショウちゃんはとても悲しくなりました。そして、心臓をサヨに貸したものですからショウちゃんは『オレンジ・サンセットの国』から出られなくなってしましました。3日以内にサヨがショウちゃんに心臓を返してくれない場合、ショウちゃんは夕焼けのオレンジ色に溶け込んでしまいます。そうなってもしょうがないと思いましたがショウちゃんはサヨにとても会いたかったのです。また、一緒に遊びたかったのです。自分の心臓の一部をサヨに貸していましたからサヨが何を考えているかショウちゃんにはよくわかりました。サヨが自分に会いに来ようとしてくれていることがうれしかったのです。だからサヨの手助けをしたくてショウちゃんは『オレンジ・サンセットの国』の行き方を自分の心臓を通じて教えました。その夜、サヨに歌ってあげた歌はなかなかよく歌えました。ショウちゃんはサヨにだけ聞こえるように小さな小さな声で歌いました。

♪夕焼け、小焼け。オレンジ・サンセットの国の空はどんな色?
きれいな、きれいなオレンジ色。空に浮かぶはオレンジ・サンセット。
オレンジ・サンセットの国は懐かしい国。
オレンジ・サンセットの国は時間がピタリと止まる国。
オレンジ・サンセットの国は好きな人の顔が思い浮かぶ国。

そして、ショウちゃんは小さな小さな声で続けて又歌い始めました。

♪夕焼け、小焼け。オレンジ・サンセットの国はどんなとこ?
きれいな、きれいなオレンジ色。夕日が西に沈みます。
オレンジ・サンセットの国は夕日のオレンジと同じ色。
オレンジ.サンセットの国はインディゴ空も混ざってる。
オレンジ・サンセットの国はオレンジとインディゴの混ざり合った国。

ショウちゃんはさらに小さな小さな声で又歌い続けました。

♪夕焼け、小焼け。オレンジ・サンセットの国はどう行くの?
きれいな、きれいなオレンジ色。夜のインディゴと混ざり合う時。
オレンジ・サンセットの国は風がピタリと止まるとき。
オレンジ・サンセットの国はサカリの野良猫「ねう!」と鳴く。
オレンジ・サンセットの国は月の鍵でその扉が開く。

サヨは眠るまでこの歌を何度も何度も心の中で繰り返しました。ショウちゃんもそんなサヨの歌に合わせて歌ってみました。ショウちゃんはうれしくなりました。

5へつづく

(『オレンジ・サンセットの国』・09/03/27・hiroc8)