☆イバラ姫(グリム童話集2)

グリム童話集2『イバラ姫』

☆大畑末吉*訳

偕成社文庫

●眠っている間は時が止まったままなんて。100年前だったら会えなかった二人がめぐり会えたということでめでたい。


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   『オレンジ・サンセットの国』3/6

次の瞬間、サヨの前にはオレンジ色の中にまっすぐ伸びるインディゴ色の道がありました。サヨはインディゴ色の道をずんずん進んでいきました。どのくらい歩いたのでしょう。どこまで進んでも同じ景色が続きます。サヨはだんだん不安になりました。『オレンジ・サンセットの国』へ行った後、どうするかなんてまったく考えていなかったのです。すぐにショウちゃんに会えると思っていたからです。サヨはとうとうインディゴ色の道に座りこんでしまいました。前をみても歩いてきた後ろを振り返っても景色はみんな同じです。サヨは「ショウちゃん。」と呼んでみました。辺りにはサヨの声がさみしげに響くだけです。サヨはどれくらいそこに座り込んでいたでしょうか。突然、耳の中の石がパタパタ騒ぎ始めました。ふいにサヨの目の前にボーッと小さくオレンジ色の何かが光ったのです。よく見るとそれはオレンジ色のホタルのようでした。そういえばショウちゃんとも夏におばあちゃんの家の庭でホタルをみたことを思い出して、サヨは元気がわいてきました。ホタルはゆらゆらとインディゴ色の道を進んでいきます。サヨもホタルを見失わないようにホタルの後をついていきました。
しばらく歩いていくとオレンジ色のりっぱな家に着きました。ホタルはその家の中にスーと入って、消えていきました。サヨも急いでその家の中に入りました。「こんにちはー。」と声をかけましたが返事はありません。「おじゃまします。」と声をかけて、サヨはその家の中に入ってみますとオレンジ色のテーブルの上に4人分のオレンジ色のカップにオレンジの紅茶がおいしそうに湯気をたてて、置いてありました。オレンジのカップの横にはオレンジ色のお皿がちょこんと置いてあります。サヨは椅子にこしかけて、紅茶を飲みました。「なんて、おいしいのでしょう。」とサヨは言いました。紅茶はとてもおいしかったのです。紅茶を飲み終わると紅茶はまたオレンジ色のカップいっぱいになりました。そして、隣に置いてあるオレンジ色のお皿たちが歌い始めました。

♪おはよう。おはよう。朝ですよ。紅茶はいれたて、さあさあパンケーキを置いとくれ。置いとくれ。

サヨは辺りを見回して、自分のバックをぎゅっと抱きしめました。サヨのバックの中にはショウちゃんが大好きだったパンケーキが4枚入っていたのです。サヨは「パンケーキなんてここにはないわ。」と言いました。するとお皿はさっきよりも大きな声でまた歌い始めました。

♪おはよう。おはよう。朝ですよ。紅茶はいれたて、さあさあパンケーキを置いとくれ。置いとくれ。

サヨもさっきより大きな声で「パンケーキなんてここにはないわ。」と言いました。するとお皿はさっきよりももっと大きな声でまた歌い始めました。

♪おはよう。おはよう。朝ですよ。紅茶はいれたて、さあさあパンケーキを置いとくれ。置いとくれ。

サヨはとうとうオレンジ色のお皿の上にパンケーキを一枚ずつ置いてやりました。オレンジ色のお皿たちは静かになって、どこからかオレンジ色の人が4人テーブルに座って、パンケーキをおいしそうに食べ始めました。サヨはオレンジ色の人に話しかけようとしました。すると次の瞬間、サヨの体がガクンと揺れてサヨはまたインディゴ色の道の真ん中に立っていました。

 そして、サヨの目の前をオレンジ色のホタルがゆらゆらと進んでいきます。サヨはまたホタルの後をついていきました。しばらく歩いていくとまたオレンジ色のりっぱな家に着きました。ホタルはまたその家の中にスーッと入って消えていきました。サヨも急いでその家の中に入りました。「こんにちはー。」と声をかけましたが返事はありません。「おじゃまします。」と声をかけて、サヨはその家の中に入ってみますとオレンジ色のやわらかい光の射すオレンジ色のカーペットの上に小さなオレンジ色のネコが3匹すやすや眠っていました。サヨは「わー。かわいい。」と言って、オレンジ色のカーペットの上に足を踏み入れますとオレンジ色のネコたちは一斉に鳴き始めました。オレンジ色のネコたちを見て、サヨはギョッとしました。だって、3匹とも両目がなかったのですから。
オレンジ色のネコたちはサヨのまわりを「ビー玉を目にしたいからビー玉をくれよ。」とくるくる回ります。サヨは自分のバックをぎゅっと抱きしめました。オレンジ色のネコたちは両目がないのにサヨのバックの中のビー玉が見えるみたいに「ビー玉を目にしたいからビー玉をくれよ。」とさらに大きな声でせがみます。ビー玉はちょうど6個ありました。海色の青が2個と草色の緑が2個と夜空色のインディゴが2個です。全部、ショウちゃんの好きな色です。サヨはどうしていいかわからなくなって黙っていました。するとオレンジ色のネコたちはさっきよりもさらに大きな声で「ビー玉を目にしたいからビー玉をくれよ。」とせがみます。サヨはとうとうネコたちが気の毒になりビー玉をオレンジ色のネコたちの目に入れてやりました。オレンジ色のネコたちはうれしそうにサヨの周りをくるくるまわって、一鳴きしました。すると次の瞬間、サヨの体がガクンと揺れてサヨはまたインディゴ色の道の真ん中に立っていました。

 そして、サヨの目の前をオレンジ色のホタルがゆらゆらと進んでいきます。サヨはまたホタルの後をついていきました。しばらく歩いていくとまたオレンジ色のりっぱな家に着きました。ホタルはまたその家の中にスーッと入って消えていきました。サヨも急いでその家の中に入りました。「こんにちはー。」と声をかけましたが返事はありません。「おじゃまします。」と声をかけて、サヨはその家の中に入ってみますとオレンジ色の広い庭がありました。オレンジ色の広い庭にはオレンジ色の子どもが遊んでいました。サヨは「ショウちゃん!」と大きな声で叫びました。オレンジ色の子どもはサヨの方に駆け寄ってきました。オレンジ色の子どもは「緑色のなわとび、おくれよー。」とまるでサヨのバックの中身が見えるみたいに言いました。サヨは自分のバックをぎゅっと抱きしめました。だって、ショウちゃんに持ってきたおみやげはこれが最後です。だから、この緑色のなわとびだけはショウちゃんにあげようと思っていたのです。オレンジ色の子どもはそんなサヨの気持ちにおかまいなくさっきより一層大きな声で「緑色のなわとび、おくれよー。」とせがみます。サヨは後ずさりします。オレンジ色の子どもはさっきよりももっともっと大きな声で「緑色のなわとび、おくれよー。」とせがみます。そして、サヨの周りをぴょンぴょン飛び始めました。サヨはやさしい子でしたからショウちゃんと同じぐらいのそのオレンジ色の子どもがとうとうかわいそうになりあきらめて緑色のなわとびをあげました。オレンジ色の子どもはうれしそうに笑って、サヨから緑色のなわとびを受け取りました。サヨはショウちゃんに渡した気分になって少しホッとしました。オレンジ色の子どもが庭でなわとびを跳び始めました。すると次の瞬間、サヨの体がガクンと揺れてサヨはまたインディゴ色の道の真ん中に立っていました。

でも、なぜだかサヨにはさっきの緑色のなわとびを跳ぶ音が聞こえてきます。オレンジ色の子どもが緑色のなわとびを跳ぶたびに懐かしいいい匂いがします。その匂いは昔ショウちゃんと遊んだ春の野原の匂いです。草や花の匂いです。どこからそんな匂いがするのだろうと周りを見回せばいつの間にかオレンジ色の世界とインディゴの道は消えて、昔遊んだ近所の懐かしい野原にサヨは立っていました。風もさらさら吹いてきました。遠くから「サヨ〜、サヨ〜。」と呼ぶショウちゃんの声が聞こえてきました。いつの間かサヨはショウちゃんと遊んでいました。どのくらいサヨはショウちゃんと遊んでいたのでしょうか。ふいにカラスが「カァー、カァー。」と鳴きますと辺りはインディゴ色の闇に包まれました。インディゴ色の闇の中、サヨは必死で目を凝らしているとボワーンとオレンジ色の何かが光りました。たくさんのオレンジ色のホタルがサヨの周りをゆらゆら浮かんでいました。その中の一匹のホタルが緑色にボーと光ったと思ったら、サヨの耳の中から石がコトンと落ちてなくなりました。「バイバイ。サヨ。」とショウちゃんの声が聞こえたので追いかけようとしたらサヨは病院のベットに寝ていました。
サヨはキョロキョロ周りをみまわしました。お母さんが心配そうにのぞき込んでいます。サヨと目が合うとお母さんはサヨをギュッと抱きしめました。サヨは入院してすぐに意識がなくなってしまったそうです。先生がサヨを診察して静かに言いました「もう大丈夫でしょう。」お母さんとお父さんはうれしそうに「よかった。」とサヨの方を振り返って言いました。病院の窓からはきれいな夕焼けがお母さんとお父さんとサヨをオレンジ色に照らし出していました。

4へつづく

(『オレンジ・サンセットの国』・09/02/28・hiroc8)